2009/9/25 奥田政行シェフのHidden Story

今週は、山形で人気のレストラン「アル・ケッチャーノ」の奥田政行シェフ。
今年、銀座にも出店したシェフがその胸に秘めた情熱に迫ります。

1994年の冬、東京で修行を積んだひとりの料理人が山形県鶴岡市の鶴岡駅に降り立ちました。

鶴岡に就職するというときに、荷物を全部持って夜行列車できて、パッと駅前におりたときに、この街を元気にすると思ったのが25歳のときです。 鶴岡の駅に降りたら、みんな下を向いて歩いていたので、この人たちを元気にしたいと思ったんです。 今考えたら、風が強かっただけかもしれないですけど(笑)

食でこの街を元気にする。そう決意したのは、奥田政行さん。
今や、その噂が東京にまでとどろく山形のイタリアン、「アル・ケッチャーノ」のオーナーシェフです。
地元鶴岡のホテル、そして農家レストランの厨房に立ったのち、2000年の3月、そのお店「アル・ケッチャーノ」がオープンします。

最初にホテルのときは、フランス料理やイタリア料理の基本を徹底的にスタッフに教えるということ。 基礎ができたところで私はやめて、農家レストランでは、新鮮な農作物をいかしたイタリアンというコンセプトでやっていったんですね。

弟子がホテルではちゃんとしたフランス料理を作っている。
農家レストランではイタリアンをやって、イタリアンのちゃんとしたお店も地域にある。
で、次に自分がやる料理は、水のお料理というか、地域の自然をお皿に映したお料理をやっていく。
それはそういう店がちゃんと配置されていないとできないんです。

自分のお店だけにお客さんが来るようにするんじゃない。
お客さんが食を楽しむ雰囲気を街全体で作って。

自分のお店だけではなく、地域全体のことを考える。
奥田シェフは それを強調します。
そして、コメントにあった「水の料理」とは?

食べ物を全部突き詰めて考えていくと「水」にぶちあたります。

水をどうやってあやつるかで味は変わるので、水は研究していたんです。
庄内はいろんな水のポイントがあって、全部成分が違うんですね。
水というのは素直な物質なんです、例えば、指を入れるだけでコップの水はその人の味になります。
そのくらい微妙なものなので、その水が通って来た石や砂、土の味を水は吸うんですね。
ということは、各地域の水によって、例えば、土がついた野菜には土っぽい水を使ったりとか、あとはカルシウム、マグネシウムの含有量で、ミネストローネスープにはこのタイプ、ポタージュにするのはこのタイプというふうに、その素材にあった、料理法にあった水というのはあるんです。

「アル・ケッチャーノ」の料理の大きな特徴、それは、ソースを使わないことです。
なぜ、そんなことが可能なのか?

答えは、やはり、「水」でした。

地元の食材を地元のものでというのが、アル・ケッチャーノのコンセプトなんですが、野菜と魚は同じ水系のものを使えば、誰がやっても合います。 その川の水を吸った野菜と、その川の魚を合わせれば、その川でつながっている共通の味があるので、フォンドボーとか、だし汁とか、味の仲介役がいらなくなるんです。

山形まで行かなくても、奥田シェフの「水の料理」は味わえます。
今年、銀座一丁目に開店した「ヤマガタ・サンダンデロ」。

山形県鶴岡市のレストラン「アル・ケッチャーノ」は、地元の食材を使う、いわゆる、地産地消の先がけ的な存在として大人気となりました。
そんな、地方イタリアンのシェフが、東京・銀座に出店したのです。

お店の名前は、「ヤマガタ サンダンデロ」。

山形への入り口、ですね。 それで興味を持ってもらって、本場を見たいとか、本場の水を見たいとか、生産地を見たいとか、そういう入り口ですね。

サンダンデロは、山形の農家の次の世代をつくる、というコンセプトもあるので。
次の世代の方々の農産物を買って、付加価値をつけてあげて、農家をやることで夢があって、経営も安定する。
それをやるためにやってるんです。

農家の現状としては、子どもは親の背中を見ているので自分も農業をやりたい、でも農業をやると収入がない。
親はその子に、本当は農家を、代々のものをやってもらいたいけれど、どっかに働きに出なさい、というのが農家の現状です。
いろんな人に話を聞くと。

農家の未来、農業の未来を切り開くモデルを作りたい。
その挑戦は、始まったばかりです。
でも、シェフには、確信があります。
その背骨にあるのは、「山形、庄内の幸福論」。

庄内は庄内の幸福論があって、庄内っていうのは、所得が少ない。 じゃあ、どうすればいいか?お金がかからない社会にすればいい。 生産者がアル・ケッチャーノに野菜を持ってきたら、何人家族ですか?って聞いて、4人といえば、米沢牛を4枚カットしてあげればいい。 そういうお金がかからない社会にすればいい。それが庄内の「おすそわけの文化」です。 庄内が江戸時代からやってきた、自分にあるものは相手に、相手にあるものは自分に。 助け合うという庄内の幸福論。

美味しい料理を提供する。
それを軸に、奥田シェフは考え続けます。
どうすれば よりよい社会になるのか?

ちなみに、奥田シェフ。
山形で車を走らせているときに、良さそうな畑を見つけると、必ず立ち止まるそうです。

全然知らない畑でも、美味しそうな畑って分かるんです。

車でいくと、見るポイントがあって。雑草を見るんですけど。
この畑、美味しそうだなと思うと入って行って食べちゃうんです。
以前は、コラーって怒られてたんですけど、最近は、車で来て、また怒られる、と思っていたら、「奥田シェフ、よく来てくださった。写真撮らせてください」とかって(笑)。

悪い畑は、細い葉っぱで、いい畑は丸い葉っぱになります。
最後、すごい健全な畑になるとどうなるか知ってます?
葉っぱがハート型になるんです。

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