2009/9/18 「GR DIGITAL」の誕生秘話

今週は、大人気のデジタルカメラ、「リコーのGR DIGITAL」。
その誕生の瞬間に迫ります。

リコーのGR DIGITAL。
このデジタルカメラの源流には、1台の銀塩カメラがありました。

リコー GR DIGITAL

1995年に、「銀塩のGR」が登場しているんですね。 私が担当し始めたころから、ゆくゆくは「GRのデジタル版」を出さなきゃいけないんだよな、というのは頭の中にありました。 GRというのは、銀塩のカメラマニアの方、プロの方含めて、多くの方に愛用されていましたし、GRのブランドというのは、その時点であるレベルで確立されていたので、デジタルカメラをやっている以上は、どこかのタイミングでGRのデジタルを作らなきゃいけないだろうと。 それが私の使命だと思っていました。

「GRのデジタル版を作ることは、自分の使命だと思っていた」
そう語るのは、開発チームを率いた、湯浅一弘さんです。
でも、2002年当時はデジタルカメラの画素数が発展途上。
実力派銀塩カメラ「GR」の名前を冠したデジタルカメラを作るのはまだ早い。
湯浅さんは、そのときが来るのを待っていました。

2004年、「次はGR」という意味を その名に隠した「GX」を発表。
GR DIGITALのプロジェクトが走り出します。
しかし、そこには、ひとつの大きな問題がありました。

GRというものは私も知っていましたし、でも私もカメラの部門に来るまでは、そこまでカメラに詳しくなかったので、何を満足すればGRという名前をつけていいのか?GRを知っているお客様が「うん、これはGRだよね」と言ってくださるのはどんなカメラなのか? これは散々議論しましたよ。 それこそGRを企画した人間、設計した人間、販売の人間、サービスをやっていたメンバーを集めてですね、「GRって何?」と。

少ないときで5〜6人、多いときは20人ほどが集まって会議が開かれました。
すぐには答えが見つからず、3〜4ヶ月、会議は続けられます。
テーマはいつも 「GRって何?」

これはね、最後の最後は確信に近かったです。2つだけです。 「すみずみまで、周辺まできちんと解像する画質」、それと、「携帯性」。 この2つだったんです。

さまざまな意見が、最終的に2つにしぼられたのです。
方向は 決まりました。
   
リコーのデジタルカメラ「GR DIGITAL」。
開発チームが絞りこんだ命題は、「すみずみまで解像する画質」と「携帯性」。
この2つでした。
これを満たすカメラを作る! 開発が始まりました。

最初は、広角は外すつもりはなかったんです。 広角28ミリで3倍ズームでいこうという設計をしていたんです。 でも、3倍ズームの設計にすると、さっき言った2つが満足できないんですよ。 すみずみまでどのポジションでも解像するというのが、その時点の技術ではできなかった。 それから、ズームを意識すると、レンズが大きくなっちゃうんですね。 そうすると出っ張っちゃうんですよ。

カメラのサイズも大きくなるし、レンズがカメラ本体から出っ張っちゃう。
これじゃだめだと。 3倍ズームはあきらめようと。
それでズームをやめて、単焦点にしたんですけど、単焦点にしてみると、画質も携帯性も満足できる。

ただ、最大の懸念は、その時点で単焦点のデジタルカメラは何機種があったんですが、お客様に受け入れられずにたたき売り状態だったんですね。

「単焦点のカメラ、つまりズーム機能を搭載しないカメラを作ることに周囲は 首をかしげていたはずだ」
開発チームを指揮した、湯浅一弘さんはそう語ります。
湯浅さんの中にも不安がありました。
ズームがなくても受け入れられるのだろうか?? 
そんな心配を打ち消してくれたのは。。。

何人かのカメラマンの人と話していると、「湯浅さん、カメラっていうのは、写真撮影というのは寄るんだよ」と。 逆に言えば「寄ればいいんですよ」と。

寄るというのは被写体に寄るということですね。
いいカメラマンというのは、被写体に寄れるんですよと。
そうか!寄ればいいのねと。
だったら単焦点でもいいじゃないのと。 私は決心しましたね。

いい写真とは、被写体に「寄って」撮影した写真である。
この言葉に後押しされて、設計が完成しました。
そして、デザインは。。。

きちんとした写真がとれる、カメラとしての道具感。 カメラっていうのは道具なんだと。 使う方がほしいのは、そのカメラで撮った写真が欲しいんで。 だから、よく撮れるような道具感がないとダメなんですよね。 それは無骨でもいいと。

2005年9月13日、「GR DIGITAL」がメディアの前にその姿を現しました。
翌10月、発売開始。

カメラファンが待ち望んだそのカメラは、クチコミによって人気を拡大。
今や、多くの人に支持されるデジタルカメラとなりました。

GR DIGITALのヒットを生んだ湯浅一弘さん。
最後にこっそり、こんなことを教えてくれました。
湯浅さんが、新しいカメラを世に出す前に 必ずすること。 それは。。。

いまだに最初の試作機ができると、それを借りて、徹底的に写真をとるんですよ。 それでここの操作感は違うねとか、この絵はいただけないねとか。 それをやるんですね。 毎日のように使った感じのレポートが私のところから出て行くんですね。 メールで、担当者に。だから担当者は嫌だと思いますよ(笑) それは今でもやってますよ。

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