2009/9/4 「体脂肪計」の誕生秘話

今週は、「体脂肪計」の誕生秘話。

「体脂肪」

今や誰もが知る言葉となりましたが、80年代半ば、それは、体重計を作っていた株式会社タニタの社員でさえ聞き慣れない言葉でした。

いろいろ探っているなかで、どうやら、体重だけを測っていても肥満じゃないと専門家に言われたようで、肥満の中身は、脂肪が多いか少ないかだと。 それで、脂肪を測るものは何かないかといろいろ探していくなかで、アメリカで電気抵抗を使って脂肪を測るものがあるらしいということをつかんできたようなんですね。

タニタの佐藤富男さん。
彼こそが、体脂肪計を開発したその人です。
佐藤さんが新入社員としてタニタに入った前の年、会社は、ひとつの目標を かかげました。
それは、「体の中の脂肪を測ることができる機械を作ること」。

私のひとつ先輩は、超音波を使って脂肪を測ろうとしたらしいんですね。

昔は皮膚の脂肪の厚さを測って体脂肪率を出すというやり方が一般的だったんですよ。
腕のうしろと肩甲骨のところをつまんで測って計算式に入れていたようなんですけど、これを超音波で代わりにやろうと。
でも、超音波という技術も難しいし、もし出来たとしても測りずらいものなので。

たったひとり、佐藤さんが開発に臨んだのは、電気抵抗を使って体脂肪を測定するシステムでした。
アメリカで先行して作られていた装置を元に、一台の機械ができました。
しかし、大きな問題があったのです。
完成したのは、ベッドに寝て 電極を体につけて計測する、という装置で、ひとりあたり5分以上 時間がかかってしまいました。

この形じゃダメだな、ということで、 ま、ヘルスメーターの会社ですから「体重計にくっつけちゃおう」ということで、体重計と一体になったものの開発に進んでいくんですね。

「体脂肪を測る装置を作れ」
株式会社タニタの佐藤富男さんは、この命題に、電気抵抗を使って測定する方法で挑みました。
ひとまず、電極を体に貼るタイプの機械が完成しましたが、しかし、それでは 計測に時間がかかりすぎる。

そこで佐藤さんは原点に戻ります。
「そもそも、うちは体重計を作って来た会社じゃないか」

当時はやはり、「電極を手足に貼って寝て測るものだ」というのが普通だったんですが、それを、体重計に乗るだけで測れますというのを作ったのが我々で。 その体重計に一体型にして、「固定された電極に乗る」というのが精度がいいんですね。 何回やっても同じ値が出てくるんです。

貼付けの場合は、電極の場所がズレると値が違ってくる。
「それで方法は何かないかな」と探しているうちに、「固定しちゃっている足の裏で測ればいいんじゃないの」ということで試してみたら、結構よかったんですよね。
じゃあ、体重計にくっつけちゃえと。何でも試してみないとダメだなと(笑)

電極の位置がずれないためにどうすればいいか?
そうだ。 足の裏なら、ズレようがない。

足のところに4つ電極があるんですが、つま先のほうから電流を流すんですよ。 “かかと”のところで電圧を測るんですね。 そうすると、昔、オームの法則というのを習ったと思うんですが、電流値を電圧で割れば、電気抵抗が出るんですね。 それを利用して、体脂肪が多いということは、電気が人の体のどこに流れるかというと、筋肉、水分を多く含む筋肉なんですね。 「体脂肪が多いということは筋肉が少ない」ということですね。 筋肉が少ないと、流れる場所が少ないので電気抵抗が高くなるんですね。 これを逆に利用して、「電気抵抗が高いと体脂肪が多い」ということで計算してるんですね。

手探りのなかで出来上がった 体脂肪計。 評判は上々でした。

海外にも持って行ったりして、評判がよかったんですね。 体脂肪なんて誰も測ったことがなかったですからね。

一部の人は測ったことがあったんでしょうけど、体脂肪を測ること自体、ポピュラーじゃなかった。
何%あるのかなんて誰も知らなかったんですよね。
展示会とかやると、長蛇の列になるわけですよ。

まずは、健康診断をする施設に導入が進みます。
その後、コストダウンに成功、家庭用のタイプが開発されました。
求めやすい価格となった体脂肪計は、売れに売れました。
体脂肪を測ることが、特別なことからごく日常的なことへと 変わっていったのです。

タニタの佐藤富男さんは、開発の道のりを振り返って、こう語ります。

ひとつ、世界の人の役にたてたかなと。 人が生きて行く価値って何なのと考えたときに、人の役に立つことをするとだと思うんですよ。 そういう意味では、大きな仕事ができたかなと思います。

» タニタ