2009/7/3 京都

梅雨時の京都。7月に入ると祇園祭がいよいよはじまります。
1日の吉符入りの夕方から、お囃子の練習がいよいよ仕上げの段階に入り、街のあちこちから、コンチキチンという鐘の音が聞こえてきます。
そんな喧噪から少し離れた北区、鞍馬寺に近い町家で、彼女はしっとりした空気で大きく背伸び。

そして心に決めました。 今日は京料理のおばんざいで朝ご飯。
だって、何かいいことが起こりそうな、そんな気がするから。

京都といえば、思い出すのが「おばんざい」。
京料理には欠かせない家庭の日々のおかず、つまり日常の惣菜です。
基本的には京都でとれた旬の京野菜などを使った、いわゆる地産地消のものがほとんどなのです。しかしこの梅雨から初夏のこの時期にかぎって食卓に登場する「じゅんさい」は特別です。

この「じゅんさい」の産地は、北区の深泥池。
しかし今はここに自生する「じゅんさい」が食卓に上る事はありません。
広さ10ヘクタールに満たないこの池の生物は、最後の氷河期からその生態系が守られているのです。 そのため学術的に非常に価値があるということで、今から80年以上前に、国の天然記念物に指定。
食用に収穫する事ができなくなってしまいました。

スイレンなどと同じように、葉っぱを水面に浮かべ、そこからつるの先に、1センチほどの小さな花が咲くのがちょうど今の時期。
食べるのは、その茎の先端の芽の部分や葉っぱの部分ですが、ゼリーのようなヌルヌルとした透明の粘り気がある粘液で覆われ、「つるん」とした独特の食感があります。 特に塗り箸などでは取りにくいために、京都弁ではつかみどころのない人のことを「じゅんさいな人」というくらい生活に根付いた食べ物なんです。

そんなわけで「幻の京野菜」ともいえるのですが、現在は場所によっては池や沼の開発で絶滅危惧種にも指定される自治体もあるとか。
京都で食用に供されるのは、近畿から中国地方のものが多いようです。
瓶詰めで売っているものなどは、秋田県産が中心のようですが、サイズが小さいものほどお値段が張るんです。
一般的には突き出しなどとして、小鉢に盛られた「じゅんさい」を酢醤油やわさび醤油で食べるのですが、朝の食卓にはなんといってもお味噌汁がベストでしょう。

京都のみそ汁といえば、旬の素材と共に夜食として専門に出すお店もあるくらい、生活に密着していながら、こだわりがあるのが京都風。
味噌のブレンドも素材によって、また家庭によっても微妙に変化します。

しかし朝のごはんでは、やはり合わせ味噌で、それほどクセのない飲み口が、淡白な味わいで食感を味わう「じゅんさい」に合うようです。