2009/2/27 「新型インフルエンザ研究」のHidden Story

今週は、発生することが心配されている「新型インフルエンザ」。
その研究の最前線に立つ人物のHidden Story。

「新型インフルエンザ」、「人から人に感染」、「パンデミック」。。。
こうした言葉を頻繁に耳にします。
「新型インフルエンザ」 その世界的な研究者は、東京にいました。

東京大学 医科学研究所の河岡義裕教授がその人です。

我々の研究室は今、特に話題となっている新型インフルエンザウイルスの研究をやっています。

鳥のインフルエンザウイルスなので、なぜ鳥のインフルエンザウイルスが人に感染するようになるのかとか、あと、このウイルスはニワトリを殺してしまう病原性が強いものなのですが、なぜニワトリを殺してしまうのか? それを防ぐ方法はないのか? いいワクチンはないのか? いい薬は作れないのか? そういうことをやっていますね。

河岡さんが本格的にインフルエンザウイルスに取り組み始めたのは1983年のアメリカ。

その年の春、ニワトリのあいだで感染するウイルスが現地で発生。
当初は、ニワトリが死ぬことはありませんでしたが、やがて、そのウイルスが ニワトリを殺すほどの強さを持つようになりました。

河岡さんの所属したチームは、この変化がなぜ起こるのか研究を進めたのです。

当時は、ニワトリを殺すウイルスと殺さないウイルスは別ものだと思われていたんです。

だけど、このときの研究で、ほんの一部が変わると病原性の強いウイルスに変わるのかが分かってきたんです。

それはすごく重要で、今、新型インフルエンザのワクチンを作っているんですが、これは本来どうやって作るかというと、普通は、人のインフルエンザのワクチンのように、人からウイルスを取り出してそれを殺して注射しているのがワクチンなんですけど、そういうことができないんです。
というのは、今、アジアとかヨーロッパで流行している鳥インフルエンザウイルスというのは、ものすごく病原性が強くて、それをそのまま増やそうとすると、ワクチンをする人が危険でやっておれないわけですよ。

「どこを変えると、強いウイルスになるのかが分かる」
それはつまり、「どこを変えると病原性を低くできるのかが分かる」ということです。
80年代におこなった研究が、今の鳥インフルエンザのワクチン開発に活きているのです。

そしてさらに、河岡義裕さんのグループが成功した「あること」が、その後、大きな意味を持つことになります。

新型インフルエンザウイルスの研究を進める、東京大学の河岡義裕教授。
ここまでの道のりで「特に重要だった」と振り返るのは1999年の出来事です。

「インフルエンザウイルスを人工的に作る」という技術を開発したんですよ。

これはものすごく大きくて、ここを変えればニワトリを殺すウイルスを殺さなくできるといいましたが、それはウイルスを作る技術ができなければできないことですよね。
ウイルスを作るときに、一部を自由自在に変えるんですよ。

それが今、日本でパンデミック用のワクチンということで、世界でもやっていますが、それはこの技術を使っているんですよ。

「インフルエンザウイルスを人工的に作る」
河岡さんが、「やろうとは、思いもしなかった」というほど、それは困難なことでした。
しかし、グループの一人が示した研究結果が光を呼び込みました。

「できるかもしれない」。メンバーは動きました。
半年後、これが完成。
後の世界に大きな影響を与えている技術です。

その後はですね、我々が興味を持っているのは、今の鳥インフルエンザが人から人にうつるようになるとパンデミックを起こして大流行になるんですけど、どういうことが起きるとパンデミックになるのか調べているんです。

例えば、これはトリのウイルスなので、トリの体温って高いんですよ。 41度なんですね。
人の喉は33度です。トリのインフルエンザウイルスは33度っていう温度だとあまり増えないんですよ。
なので、トリのインフルエンザウイルスが人から人へ効率よく伝播するためには、低温で増えるように変わらないといけないんです。
ウイルスのどこが変わるとそうなるのかということを明らかにしたんですね。

今 始まったばかりの研究は「インフルエンザウイルスは、感染すると、体の中でどのように働くのか?」
最終的に治るケース。 命を奪うケース。 それぞれのケースで、ウイルスが細胞にどのように反応していくのかを、膨大なデータを元にシュミレーションすること。

そして、目指すのは、体の細胞のどこを変えれば命が助かるのかを明らかにすることです。

例えば、タミフルが効かないウイルスがでてきくるんですけど、これは当たり前のことなんですよ。 耐性のできない抗ウイルス薬というのは、ありえないんですよ。

だから、「体のほうの出来事を変えてやることによって助けるということができないかな」と。 体の反応を変えてやる。

「人の体を変えることで、命を繋ぐ」

インフルエンザでこれができれば、他の病気に応用できるかもしれない。
夢は広がります。

「何かを解き明かすことは、とても楽しい」

そう話す、河岡義裕教授。   
とびきりの好奇心と探究心を原動力に、今日も研究が続きます。