2009/1/30 スケートのブレードをとぐ達人の知られざる物語

今週は、フィギュアスケートのトップ選手の足もとを支える職人。
知られざる技を持つ達人の知られざる物語。

今日お届けする物語の主人公は、スケートのブレードを研ぐ達人、坂田清治さん。
浅田真央選手、安藤美姫選手、そして韓国のキムヨナ選手。
名だたるフィギュアスケーターが 「ブレードを研いでほしい」と 彼の元を訪れます。

スケートには靴とブレードがあって、そのブレードをシャープニングするっていうんですが、それは、ブレードの種類によっても違うし、例えば、あったかい地方と寒い地方では溝の入れ方も違うし、その人の技術、身長、体重によっても違ってくるんですね。

世界のトップスケーターが絶大な信頼を寄せる坂田清治さん。
かつて自身も選手だった坂田さんは高校生だった頃、よりよい滑りを実現するため、ブレードのシャープニングに取り組みました。
両親が時計や金属を扱うお店を営んでいたため、細かな作業は幼いころから得意だったのです。
当初は手作業が中心でしたが、その後、雑誌の片隅に見つけた1枚の写真が坂田さんを変えました。
そこに映っていた機械をヒントに、自作のシャープニングマシンを作ろうと思ったのです。

あれ?と思って、いろいろ試案を練っていたところに、東京で世界選手権が開かれました。エリザベスマンリーという人が3位になった大会なんですけど、そのマンリーが、横滑りがするから研いでくれ、と来まして。で、そのときに、私が作った試作品があったんですよ。それで研いだら、パーフェクトだと。彼女は結果3位になったんですね。

このときは試作品でしたが、その機械は1980年に完成。
ブレードを台に固定、小さなモーターで砥石を回転させてそれを刃にあててとぐマシン。
これによって作業の正確性が格段にアップします。
さまざまな選手の耳に、坂田さんの名前が届くようになりました。

フィギュアスケートのブレードを研ぐプロフェショナル、坂田清治さん。
ブレードとともにシューズも扱い、さらに自らコーチも務められています。
これまで手がけたブレードとシューズは数知れず。
現在、経営されているアイススケートショップには、荒川静香、村主章枝、安藤美姫、浅田真央。 さらにはミシェル・クワンにキム・ヨナ。
フィギュアの最高峰をきわめるアスリートたちとの写真が所狭しと飾られています。
世界のトップスケーターが信頼を寄せる理由。 それは、坂田さんの的確なアドバイス。
例えば、浅田真央選手のシューズにはこんな工夫が。。。

結局、女子は4分ですから。だいたい3分くらいのところで息切れするんですよ。そこで私が前々から言っているのは、靴は750グラムくらいのものが理想だろうと思っていまして、ブレードを含めて1キロ前後がいいんじゃないかと計算をしていたんですよ。そしたら真央ちゃんのは1100くらいだったんですよ。
私は1000くらいまで落としたほうがいいと。今、ライトでベージュで軽い靴を履いているんですよ。だから後半までもつんです。真央ちゃんの靴は120グラムくらい軽いんですよ。

新品のシューズを足の形にあわせるために 靴をあたためる機械=「スケート・オーブン」や、くるぶしのところをフィットしやすくするマシンなどが並ぶ作業室。
今日も100分の1ミリの違いを感じ分けるという達人の手がブレードを削ります。

私がエッジを研ぐときには計算していますよ。
1ヶ月前に機械でといで、1週間前に手でとぐ。1週間前にくもりだけとる。
そこですよ、調整は。最終的にはそれくらいの心遣いがないとだめでしょう。
だから、変なときに、調子が悪いときに持ってこられるの嫌なんですよ。1ヶ月に1週間くらい、100分の1が分からないときがあるんですよ。そういうときは持ってこないでっていう。自分の手を信じるしかない。やっぱり、これだろう、というのはありますね。手が頼りです。

100分の1ミリを感じる手が、ブレードの微妙なカーブを作ります。
そして、フィギュアスケーターは 職人の技を信じて氷の上で舞うのです。
坂田清治さんが見つめる視線の先にあるのはヴァンクーバー・オリンピック。もちろん現地で 自分の手がけたブレードをつけた選手達を見守るつもりです。