2008/8/29 「Wii Fit」の開発秘話

今週は・・・大人気のゲームソフト「Wii Fit」の開発秘話に迫ります。

任天堂のゲームソフト「Wii Fit」。その販売本数は、国内だけですでに200万を超えています。このソフトを手がけたのは、「スーパーマリオブラザーズ」「ゼルダの伝説」など 数々の大ヒット作の生みの親、任天堂の宮本茂さん。

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Wii Fitの場合はね、Wiiという商品全体のデザインの一部なんですよ 。Wii Fitは、Wiiという家庭用のゲーム機があって、そのゲームはリビングに置いてあって、家族がみんなで使うんだと。そういう商品にぴったりくるソフトを作る計画がいろいろあったんですね。その中で「健康」はかかせないと。家族みんなが健康にかかわるものを作ろうというのが僕の中にあったんです。で、偶然もうひとつは、それを作り始める3年ほど前ですかね、自分で体重をはかりはじめたんです。結構面白くてですね、体重をはかるのが。はかっているうちにグラフをつけようとなって、これが楽しいんですよ。じゃあ、体重をはかるゲームを作ろうと言い出したのがこのころですね。

「体重をはかるゲームを作ろう」これが最初のアイディアでした。宮本さんは社内のスタッフにこの企画を語りました。しかし、その反応は

全員一致で「いったいどうするつもりなんですか?」と。「体重計のメーカーに頼んだほうがいいんじゃないですか」と。まあ、僕自身も分からなかったですからね。でも、そっちの方に何か楽しいことがありそうだと。体重をはかった結果が楽しそうだと。だから、何とかなるから作ってみようと。

宮本さんには確信がありました。自分自身が体重をつけてグラフにすると 楽しい。これは間違いない。そしてトレーニングはテレビの前でやるのに向いている。ゲームならビデオをみながらやるよりはインタラクティブなトレーニングができる。これも大丈夫だろう。でも、チームからが「それだけで 欲しくなるほどの魅力となるのか??」そんな声も上がりました。しかし、、、ある偶然が光を呼んだのです。

スタッフのひとりが、お相撲さんが、体重計を2個使って体重をはかっているところを見たと。普通の体重計は130キロくらいまでしかはかれないので、二つ使ってはかっていたということだと思うんですけど。2個使ってやるのは面白そうだと。これをやってみようと。市販の体重計を2個買ってきて、改造して、デジタルで表示するようにして作ってみたんです。そうすると、二つのバランスをとるのが面白いんですよ。じゃあ、前後のバランスまではかってみようと。結果的に4つもセンサーがついている豪華な体重計になったんですけど。ここまでくると体重計じゃないと。バランスWiiボードということでそこまで一気に設計が広がって行ったんですね。

人気のゲームソフト「Wii Fit」。その特徴は、バランスWiiボードと呼ばれる 長方形のボードを使うことです。相撲の力士が 二つの体重計を使っているのを見たことがきっかけで発案された このボード。宮本茂さんをはじめとする制作チームの情熱はこのアイディアをきっかけに一気に加速します。

一番最初に作ったのが右足と左足の体重バランスを完全に50%50%にするということをやったんですね。これが面白かったんですよ。バランスをとるということをテーマにすれば遊びにできると。そこからはゲーム屋さんですから、早いんですね。頭をふってると足も動きますよ。じゃあ試してみようと。頭を動かして体重移動するなら、サッカーのヘディングができるんじゃないかと。体をまわせるんだったら、フラフープもできると。作っているうちに、体重計は四角いんですけど、幅が広いほうがバランスがとりやすいと。じゃあ、ボードのようにしようとなったり。

 「とても汗臭かったです」宮本さんは、制作現場を振り返ってそう笑います。それは、他のゲームと違って 試作のたびにスタッフが実際に体を動かすから。 比喩的な表現ではなく みんなが汗をかき、Wii Fitは 完成へと向ったのです。発売されたのは、去年の12月。今や、アメリカ、ヨーロッパをはじめ世界じゅうのリビングで 世界じゅうの家族が楽しんでいます。最後にもうひとつ、大ヒットゲームをいくつも手がける宮本さんに質問を。宮本さんのゲーム作り、、、新しいものを作るときに、大事にしているのはどんなことなのでしょう?

過去にないものを作っていくと、いろんな発見があるんですよね。どうしても売れてるものに近いものを作りたいので今あるものに近いものを作ろうという姿勢が出てきたり。新しいものを作るのは不安なので、過去に実績のあるものに頼ろうとしますよね。それはもう過去の遺産に頼ろうとしていることなので、それよりは、もっと新しいものはないのか?というのが僕らの仕事なんで。で、新しいことをやっていると、意外とささいなことがすごく魅力的だったり、価値があるということに気づきますよね。新しいものを作るというのは、難しいことを考えて誰も考えていなかったことを生み出すという風に思われがちですが、そうじゃなくて、すごく分かりやすい単純なことが新鮮だったりして、それがフロンティアの楽しみだと思うんですよね。

新しいものを作ることは、難しいことを考えることではない。ささいなことに魅力を見つけ、それが新しい色で輝き始める瞬間。その瞬間に出会うことこそが フロンティアの楽しみである。。。。世界にその名をとどろかせるヒットメーカーのなまざしが一瞬、キラリと光りました。