2008/8/1 ここ数年 注目を集める新しい技術「ドライミスト」Hidden Story。

今週は・・・暑い夏の日には嬉しい「ドライミスト」。ここ数年 注目を集める新しい技術のHidden Story。

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暑い夏の日、、、頭上から吹き出す霧の下を 人々が行き交います。周囲とくらべ涼しく感じるこの装置、、、ドライミストと呼ばれるもので、毎年、設置される場所が増加中。J-WAVEのある六本木ヒルズ、新丸ビル、秋葉原駅前のエスカレーター、都営新宿線の東大島駅のプラットフォーム、暑さで有名な埼玉県の熊谷駅。さらに、名古屋駅前のミッドランドスクエア、そして、大阪城。全国に広がるこの技術、、、最初に目指したのは、クスノキの森のような空気でした。

013t_08080102.jpg 名古屋の東のほうに、かなり大きな森があるんですね。この森が名古屋のなかでどんな働きをしているか、調査したんです。朝の4時から夜の8時ごろまで、、、全部はかると森の中で、名古屋市の平均と2度くらい低い。低い理由は何かというと、木の蒸散作用であるということも分かる。蒸散作用はどのくらいかというと、葉っぱそれぞれで植物学側から出ているから、そこから推定した値を出しています。名古屋にはクスノキ林が一番多いので、クスノキの生物学事典に出ている値を設計値にしていると。

森が涼しいのは、植物の蒸散作用、、、つまり水分を外へ出す作用があるから。ならば、そんな状況を都市の中に生み出せばいい。2002年、、、ドライミストの開発がスタートしました。そして、そこにはもうひとつ、どうしてもはずせない技術がありました。それは、船の上で使われる ある方法。

私は建築防火といって、火事についての研究が専門なんですが、火災学会で、ミスト消火というんですが、、、船の消火で・・・船の消火は水をかけてしまうと重くなって船が沈んでしまうんですね。だから、細かい霧、ミスト消火という方法がとられている。で、この方法を住宅に持ち込んでも、火事は消えません、という話を聞いたんです。それで、ミスト消火のためのノズルが余っているのならそれを都市に持ち込めば、温暖化対策になるじゃないかと。

船の上の消火設備と、都市を冷やす装置。このふたつを結びつけたのは、現在、東京理科大学で教授をつとめる辻本誠さん。細かい霧を噴出させる装置、、、これまでにない機械の制作が始まりました。

「ぬれない霧」としてさまざまな場所で設置がすすむ「ドライミスト」。最初に多くの人々の目にふれたのは、2005年の「愛・地球博」に導入されたものでした。会場をぐるっと囲む「グローバルループ」という通路のうち、1万3000平米に「ドライミスト」が配備されました。このとき、その存在はまだ知られていません。考案者の辻本誠さんは、初めて装置が稼働する日をドキドキしながら迎えることになります。

2005年の7月5日の11時に吹いたんですね。7月1日から運転できる状態でウェイティングしていてずっと涼しかったので出なかったんですけど。ちょうど27度かなんかになって吹いた。経験のない人の頭の上から白い煙が吹いてくるわけですよね。大騒ぎになるんじゃないかとはっきり言っておびえていました、設計者としては。クレームがくるだろうと、だからクレームにどう対応するか考えていたんです。そしたら、1件もなくて。しかも、みんな、お弁当まで食べているんです。11時半に会場に入ったら お弁当食べてるんですよ。技術屋冥利につきるな〜と思いましたね。

「システムとしては単純です」ドライミスト 開発者の辻本誠さんは そう言います。水に圧力をかけて配管を通し霧状に噴射させる。 しかし、難しい問題はいくつか存在しました。「少ない水の量を高い圧力で押し出すこと」。「これまでにない細いノズルの先を作ること」他に用途のないこうした道具の制作への協力を得るのに大きな労力が費やされました。

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まずうまく圧力があがらないとか、うまくノズルができないと雨が降る。雨が降ってしまったら、髪がぬれるし、化粧がおちる。このクレームを避けることと、そのときにどれだけエネルギー消費があるか。できるだけエネルギー消費を少なくしつつ、クレームがこないようにするのが大事なことです。

辻本教授が強調されたのは、「エネルギー消費は少なくおさえる」ということ。ドライミストの下では、気温が2度低くなります。しかし、そのために大きなエネルギーを使っては 元も子もない。目指すのは、環境に負荷をかけずに涼しさを作ることなのです。そして、さらなる目標は、家庭用のドライミストを普及させること。

私が家庭用のドライミストを開発している理由は、夜の寝苦しさをなんとか解消したい、というのとクーラーをかけると周りの人に廃熱をぶちまけますよね。ドライミストは何がいいかというと、相手がどんどんどんどんクーラーの廃熱を出してくれると、相対湿度が下がるんですね。温度は上がるんですけど。相手のクーラーの熱は、水をかけることで処理ができるわけ。窓をあけてドライミストを出せば出すほど全体としてはよくなるわけ。これならいい近隣関係を築けるんじゃないかと思っているんです。

ドライミストの技術は、すべてblogで公開されています。森の空気を生み出す技術が ひとりでも多くの人に使われ都市の住み心地をよくすること。それが技術者の願いです。