2008/7/25 花火にかけた男の情熱物語

今週は・・・新しいスタイルの花火にかけた男の情熱物語。逗子、八景島、山形県の酒田、四国 今治、名古屋、和歌山、北海道の十勝、そして 東京湾・・・その会社のカレンダー、、、7月と8月のページには日本全国の地名が並んでいます。会社の名前は、丸玉屋。カレンダーの地名は、花火大会や 花火のショーが開催される場所です。丸玉屋が この夏 花火を手がけるのは、実に80カ所以上。

ひとつとして同じような会場はないわけです。地理的な条件はすべて違うので。我々としてはまずどうすれば最大の演出効果が得られるかレイアウトを考えます。いかに、イメージを具現化できるかですかね。 目の前にどんなシーンを思い描けるか、、、これには経験とセンスが必要ですね。

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「最も大事なのは想像力だ」 そう話を切り出したのは、丸玉屋の社長、小勝敏克さん。実は、丸玉屋がプロデュースする花火は、花火師さんたちが昔ながらの技であげる「伝統花火」だけではありません。コンピュータを駆使し 花火と音楽を絶妙にシンクロさせる技術を日本に導入した第一人者、、、それが、小勝さんなのです。そして、そうした花火ショーに足を踏み入れるきっかけは1980年代の半ばにおとずれました。

カナダのモントリオールというところで世界の花火コンペがあったんですよ。そのときに見たのが、フランスのチームが花火のショーをやったんです。完パケの音楽を使って、、、そこで彼らがやったのがラブストーリーですね。それを花火で表現するというのをやったんです。飛行機の離着陸の音とともに打ち上げたり、飛び立つときに別れを惜しむかのように花火をあげたり。フランス語が分からない私も感動しましたよ。これはすごい。ここまでできるんだな〜と。

このとき、伝統花火の部門では優勝を果たした小勝さんですが、音楽やナレーションもまじえて完全に作り込んだフランスの演出に大きく心を動かされました。そして、、、「あの演出はコンピュータなしではできない」。一気にコンピュータの導入へと踏み込んでいくのです。

伝統的な花火だけではなく、コンピュータも導入してより複雑で緻密な演出をしたい。東京日本橋にある 株式会社・丸玉屋の社長、小勝 敏克さんの想いはまず最初に、横浜・八景島で結実します。そのときに使われたのが、今お聞きいただいたEnyaの「Anywhere Is」、そして、久石譲さんの「やさしさの芽生え」、Earth Wind & Fireの楽曲など。それまでの手作業ではなし得なかった 花火と音楽との融合を見事に果たしたショーが日本に上陸した瞬間でした。

最初はSEで、やさしさの芽生えがかなりゆっくり入るんです。波の音、カモメの鳴き声、、、まだ花火はないんですよ。そのあと、打ち上げ花火だかじゃないですから、低高度の花火、花束という花火、上下に走らせたり、火の噴水、大きい玉を点在させたり、ストレートにのぼるのをクロスさせたり。これを頭の中に思い描くんですよ。で、設計図を描いて現場に落とし込むんです。

ときは1990年代前半、、、まだコンピュータがそこまで普及していない時代でした。10分間に打ち上げる花火 1000発のデータを打ち込むのにかかった時間は40時間。新しい道を切り開く者ならではの苦労が そこにはあったのです。それから10数年。最新の機材では、30分の1秒単位まで発射時間が制御でき、より細かな演出がほどこせるようになりました。

フィールドコントローラーというのがありまして、そこからケーブルがでていて、その先に各端末に行く機材があるんです。それが1個1個筒につながっています。そこでアドレスが全部違うんです。1000発打つとすると1000の番地があるんです。例えば、1FのAとかね、そこに信号がいってあげろ、と言えばボーンとあがるんです。非常に単純ですね。

「非常に単純と言えば単純です」。でも、その言葉の裏には、確かな自信がありました。「10数年かけて集めた機材は日本では最先端。世界じゅうを見ても 自分たちより明らかに優れているのは1社だけ」丸玉屋の小勝さんは、静かにそう話してくれました。そして最後にこんな質問を。花火大会や花火ショーを作るとき、イメージの源となっているのはどんなことなのでしょうか?

エンターテイメントにたずさわる人たちの想い、これは日本人以外に、世界の人から、フランス人からもアメリカ人からももらいました。花火というものを空間でいかにしっかり見せるか?というのを鍛えられたから出てくるんでしょうね、そういうイメージは。そういうのがなければ、自分のできる範囲でしかできないですよね。何でもそうですけど、ブレイクスルーするには乗り越えるには自分でそれをやってみたい、チャレンジしたいという気持ちがあってそれを乗り越えるには何が必要なのかと。そういう気持ちがあればできます。

インタビューの中で、小勝さんが何度か口にされたのが「想い描く」という言葉。やってみたいことを心に想い描く、、、そのシンプルな想いが壁を乗り越えさせ、日本に新しいスタイルの花火ショーをもたらしたのです。この夏も全国80カ所以上で、小勝さんの情熱をのせた花火が夜空をいろどります。