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今後「紙の本」が生き残るには? 岩波書店社長に聞く

今後「紙の本」が生き残るには? 岩波書店社長に聞く

J-WAVEで放送中の番組「JAM THE WORLD」(ナビゲーター:グローバー)のワンコーナー「UP CLOSE」。4月3日(火)のオンエアでは、火曜日のニュース・スーパーバイザー、青木 理が登場。読書離れや出版不況がいろいろなところで語られている中、本の世界、雑誌の世界で何が起きているのか、岩波書店代表取締役社長、岡本 厚さんに伺いました。

岩波書店は1913年創業。夏目漱石の『こころ』の刊行にはじまり、100年以上の歴史を誇る老舗総合出版社です。岩波文庫は昨年創刊90年、岩波新書は今年創刊80年。2017年は佐藤正午さんの著書『月の満ち欠け』で直木賞作品も生まれました。他にも最近話題になった『広辞苑 第七版』や、吉野源三郎さんの著書『君たちはどう生きるか』の原著も出版しています。


■出版業界の問題を提起

以前、岡本さんは講演で、ドイツの社会学者ウルリッヒ・ベックが提唱する言葉にかけ「出版界の苦しみは、世界全体のメタモルフォーゼ(変態)の波の中にいる」と問題提起しました。

岡本:このウルリッヒ・ベックの、メタモルフォーゼっていう言い方をしているんですけど、これは変化とか変容という言葉ではもう表しきれない、もっと世界全体が大きく全般的に変わっていく、つまり、さなぎが蝶になっていくみたいなことをメタモルフォーゼっていうのでしょうけど、やっぱりそういう時代に来てるんだと。もう、世界のちょうつがいが外れてしまったと。誰も世界のことを理解できないってことを彼は言ってるんですね。それだけ大きな変動の中にいます。

書籍が売れなくなったのは1996年ぐらいからと岡本さんは言います。

岡本:ちょうど20年前。そこからずっと落ち続けているんですね。出版だけではなくて、たとえばビールとかそういったものを見ても、そのあたりから変調が起きてるものも多いんですよ。そのあたりから世の中全体、これは日本だけじゃなくて世界全体が大きく変わり始めた。その要因のひとつがグローバル化、もうひとつはインターネット、これは重なっていますけども、考えてみれば本当に私個人と世界中のどの人とも原理的にはつながれるわけですよね。そんな時代はあったことがないわけで、そうすると初めて我々は人類とか世界っていうことを具体的に、抽象的なものじゃなくて、そこの中にいるようになった。そして同時にそれはひとりひとりを全部監視できるってことでもあるし、ひとりひとりがなにをしているか全部検索しちゃえる、そういう時代になってきた。それまでの人間とか社会とか、あるいは歴史とかっていう概念が大きく変わるところに来ているんじゃないかと思います。
青木:そういった中、伝える手段、メディアとして、この先、紙の本は生き残るのでしょうか?
岡本:私は生き残ると思っています。いまコミックは完全にデジタルの方が売れるようになったんです。紙の本よりもデジタルの方が上なんですね、売上としては。だから、それは書店さんの苦境につながるんですけど、どういうバランスでデジタルと紙の本がなるかは、ちょっとよくわからないんだけれども、ある程度長いもの、分厚いもの、そういったものは紙でないと読めないんじゃないかと。それから、デジタルで出してみて「あ、これはとてもいい本だ」「読みたい」「持っていたい」っていったものを紙の本で出すこともあるかもしれない。デジタルは所有できないんですよね。あれは電子データですから読むだけであって突然消えちゃったり、発売元の都合によって中が変えられちゃったりってこともあって、テキストとしては確立できないんです。


■デジタル化が進むなか、出版社の経営は?

コミックや雑誌で売上を維持している出版社が多い中、コミックのデジタル化が進み、雑誌も圧倒的に売れなくなっていくと、出版社の経営は成り立っていくのでしょうか?

岡本:これは出版社というよりも、雑誌が売れなくなって、コミックが売れなくなると書店さんが非常にいま苦しいところにきてるんです。雑誌は回転が良くて、これが書店さんの経営を成り立たせていたんですよね。だから、書店さんが次々と閉店してしまうと、そこで売っていた我々の本も売れなくなっちゃうわけですよね。そういう影響はものすごくあります。

最近「読書時間ゼロの大学生が過半数を超えた」というニュースがありましたが、これについても話題が及びました。

青木:これ、にわかには信じがたいんですが、そういう傾向は本当にあるんですか?
岡本:これは本当ですね。改めて調査をし直したということではないですが、ただ、私とか青木さんが学生の頃だって、読まない人は読まなかったですよね。1冊も、っていう人はなかなかいなかったかもしれないけど、結構私が若いときから、若い大学生が本を読まなくなったってずいぶん言われてたんですよ。だからそういう意味ではどんどん進んできたのかなっていう感じはします。


■岩波書店が生き残る道

最後に岩波書店がこれから生き残る戦略について伺いました。

岡本:これは具体的に「こうすればいい結果が出る」ということは今はまだ言えないと思います。ただ、確かに我々の中でもデジタルは伸びてるんですよ。全体の中ではまだ小さいですけれど、出版界全体では売上の13パーセントくらいが今デジタルになってるんですね。全体が縮小している中で上がってきている。これがどこまで上がるかっていうのは、アメリカなんかでもいま電子がずっと伸びるかと思ったら頭打ちになったり、少し紙の本が復活してきたりと言われていて、日本でも多分そうだと思います。ですから、デジタルはもう少し伸びるけども、これが紙の本を陵駕するくらいまでいくのかどうかはかなり微妙だと思うんですね。私としては紙の本はきちっと出しながら、同時にデジタルの方にも、岩波はたくさんの資産を持ってるのでそれをデジタル化して、たとえば図書館だとか、大口のところと契約をしながら、経営的基盤にできたらいいなというふうに思っています。

デジタル化がますます進むなか、出版界はどう変化していくのか、興味深い話となりました。

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【番組情報】
番組名:「JAM THE WORLD」
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/

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