「マンダレイ」の試写会を見に行った後、配給会社の知人から「映画どうだった?」と電話があった。なかなか面白かったと感想を伝え、「私、ラース・フォン・トリアー大好きなのよね〜」と言ったら、「変わってるねぇ」と笑っていた。うん、変わってる…かも。だって、見る側の好き嫌いが、これほどはっきりとわかれる監督も珍しいものね。一度見れば、もう当分はいいかなって思うほど後味悪いし、人間の本性と闇の部分をシニカルに描くラース・フォン・トリアー監督は、嫌悪感を抱く観客を楽しんでいるのでは?と思う時もある。だけど…見るのを止められない。心が悲鳴を上げるのに、どうしてだろう、引き込まれていく。
「マンダレイ」は、彼が今、手掛けているアメリカ3部作の2作目で、ニコール・キッドマンが主人公グレースを演じた映画「ドッグヴィル」の続編でもある。床に建物や道の見取り図が描かれた、部屋の壁もドアもない特殊な空間で描かれた「ドッグヴィル」。今回も、その独創的な手法で撮影されているから、前作を見ていれば驚きは少ないはず。大きな特徴は、主人公グレースをニコール・キッドマンに代わって「ヴィレッジ」のブライス・ダラス・ハワードが演じていること。オスカー女優さえも演じるのが大変だったはずのグレースを、24歳の新進女優がどのように演じるのか。
「こんな街さえなければ、世の中はもう少しましになる」と言い捨て、ドッグヴィルを後にしたグレースが、立ち寄った南部アラバマの大農園マンダレイ。なんとそこでは70年も前に廃止されていたはずの奴隷制度が存在していた。理想主義者であるグレースは、奴隷達に身体的、そして精神的自由を与えるため、農園に留まり彼らを改革しようとする。しかし、全てはグレースの思惑とは違う方向へと向かっていく…。
いやぁ、これまた問題作です。今までアメリカに一度も行ったことがないラース・フォン・トリアー監督が描く今回のアメリカ、どう見てもブッシュ大統領のことを考えざるを得ない。ずっと奴隷として暮らしてきた黒人たちに、自由とは何か、民主主義とは何かと教えようと奮闘するグレース。彼らの幸せの為に自分は良いことをしているんだと信じて疑わないグレース(しかし、当の奴隷達は困惑気味)。そして何より、権力を行使したいグレース。周りを見ずに、自分自身を過信して行動してしまうことほど恐ろしいことないのではないか。政治レベルだけではなく、私達の生活レベルでも起こりうること。噛み砕いて言えば、「お節介もほどほどに!」ということでしょうか。
女優として出来上がった感のあるニコール・キッドマンに比べ、ブライス・ダラス・ハワードは若さの強みか堂々と、そしてチャレンジ精神旺盛にグレースという役に挑んでいる。終盤の彼女は、この後、立ち直れたのだろうかと心配してしまうほどの体当たり演技。名監督である父ロン・ハワードの七光りは、全く無用な女優さんである。
現在、Gya0で「マンダレイ」制作ドキュメンタリー映像が配信されているので、映画と併せればもっと深く楽しめます。もちろん「マンダレイ」の前に、必ず「ドッグヴィル」を見ることをお薦めします。
次回作は「ワシントン」だそうで。ラース・フォン・トリアー監督とグレースのアメリカの旅はどのような結末を迎えるのか。今から楽しみです。