発表前に「バベル」を見た2007年02月23日

いよいよアカデミー賞の発表が迫ってきたが、
今年は日本絡みの作品の充実のおかげで、
いつも以上にメディアでの注目度が高い。

とは言え、例えば作品賞ノミネートの5作品中
「クイーン」と「バベル」は日本公開が4月なので、仮に受賞しても
一般の人には感動を共有できない部分が大きいのも確か。
映画を仕事にしている我々はマスコミ試写の機会があるので、
事前に見ることが義務でもある。
そして今日、滑り込みでやっと「バベル」を見ることが出来、
皆が本命視する理由もわかった。

まず僕が痛感したのは、映画は監督の色で支配されるという基本。
「バベル」の監督はアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ。
彼はショーン・ペン主演の「21グラム」で強烈な世界を描ききっていたが、
あの重い印象や手法・作風を覚えている人は、
本作から同じ匂いや世界観・人生観を簡単に感じ取れるだろう。
それくらい監督の色が物凄く濃く出ている作品だ。

その上での役者陣の自らを究極に追い込んだ演技である。
アレハンドロ監督が用意した舞台に、
ブラピやケイト・ブランシェットと同列で選ばれた菊地凛子は、
それだけでも賞賛に値すると思うし、確かに迫真の演技である。そして、
彼女同様アカデミー助演女優賞にノミネートされたアドリアナ・バラッザ他
とにかく出演者全員の演技が素晴らしく、
これは監督が役者を限界ギリギリに追い込んだ結晶なのであろう。

ストーリーとしては救いが無い、心が痛む部分も多いが、
作品力で2時間23分があっという間に過ぎていく「バベル」。
果たしてアカデミー賞ではどんな結末が待っているのだろう・・・

日本公開は4月28日に決定したそうです。

STAFF| 08:42 | カテゴリー:

やっと再発「クロスロード」2007年02月20日

決して大作ではないけれど、心に残った作品「クロスロード」。
公開されたのは20年前、僕は10年程前にビデオで見たのだが、
扱っているレンタル屋さんもあまり無かったくらい
日本では当たらなかった映画なんだなあ。
ごく最近、限定生産DVDとして再発されたので即買いした。

ブルース・ミュージック界最重要な人物ロバート・ジョンソン。
彼の曲でエリック・クラプトンのカバーが広く知られる「クロスロード」(原題CROSSROADS)をそのままタイトルに作られた本作、
一言でいうと「ブルースのお伽話」といったウォルター・ヒル監督作だ。

ロバート・ジョンソンは1938年に女性問題が発端(と言われている)で毒殺されるまでに、29曲の作品を発表しているが、実は日の目を見ない30曲目が存在すると信じ込んだのが、ジュリヤード音楽院生で優秀ながらクラシックでは満たされない主人公。天才ギター青年(少年?)の彼は、その曲の鍵を握る老ブルース・マンをNYの犯罪者向け診療所で見つけ、わざわざ脱獄させてアメリカ南部への旅に一緒に出掛ける、といった粗筋。

心の拠り所を求めて旅をする、といった映画は今も昔も多いが、
本作のポイントは、それを正に人生の苦甘を凝縮したブルース音楽に併せ映し出しているところ。
ロバート・ジョンソンは四辻路(クロスロード)で悪魔と取引をして、
名曲を授かる替わりに魂を売り飛ばしてしまった、と歌っているのだが、
ブルース好きには超有名な逸話を、ウォルター・ヒル監督はストーリーに上手く取り込んでいる。ちなみに80年代のロックンロールお伽話的映画「ストリート・オブ・ファイヤー」も彼の監督作だった。

主人公はラルフ・マッチオ。
80年代は「ベストキッド」「アウトサイダー」などヒット作に恵まれていた彼だが、最近名前をまったく聞かない。「いとこのビニー」も結構面白かったし、僕は意外と好きだったんだけど・・・。

そのラルフ・マッチオがあて振りで演じている天才ギタープレイを
実際に演奏・作曲しているのがライ・クーダーで、
ハイライト・シーンにはスティーブ・ヴァイまで登場して
超絶ギター・バトルを展開してしまうという、
ギター好きならそれだけでも必見な内容。

まあブルースに関心の無い人には他を薦めるとして、
アメリカ音楽ファンならば見て損はしないと思うよ。

STAFF| 08:31 | カテゴリー:

秀作日本映画「しゃべれども しゃべれども」2007年02月15日

日本のお笑いの原点ともいえる落語。
この映画はその落語を題材にして、
なかなか上達しない二つ目(真打の一歩手前)を主人公に、
とっても真面目に丁寧に創られた、そしてホノボノ出来る、
印象深い秀作だ。 つまりベタ褒めのお薦め映画!

さて本作のテーマは「不器用な生き方」といったところ。

主人公の落語家、今昔亭三つ葉(国分太一)は勿論のこと、
その周りに集まってしまう登場人物たちは皆、不器用に生きる偏屈者ぞろい。 例えば・・・
人間不信で会話はおろか挨拶も出来ない笑わぬ美人。
関西からの転校生で、方言をオチョクられ友達が出来ない小学男子。
口下手が災いして野球解説の仕事も失いそうな元プロ野球選手。
こんな共通項がまったく無い3人が、偶然のごとく三つ葉を頼って
即席話し方教室の生徒になってしまうのだが、
三つ葉自身がアガリ症で上達の遅い、
真っ正直だけが取柄のような無骨者とくれば、
いーっぱい問題が起こるのだ。

まあストーリーは見てのお楽しみとして、
懐かしい下町情緒を存分に漂わせながら進む本作は、
とにかく「丁寧に」という言葉が一番似合うといっていい。
かといって長くならずに1時間49分に凝縮されて飽きることも無い。

ハイライトは国分太一や、その師匠役の伊東四朗らが披露する落語!
特に国分太一は劇中で腕前が上がっていく様を見事に演じ切っていて、
遂には彼の噺に思わず吹出し、拍手したくなる出来映えだ。

僕はメントレの楽屋訪問や鉄腕DASHのソーラーカー企画等、
国分太一の達者ぶりをいつも楽しみに見ているが、多忙を極める中で、
あそこまで純な落語家になりきった彼に役者魂を見た。
他にも褒めたらキリが無いほど素敵な役者さん揃いの
しゃべれども しゃべれども」は5月公開だそうです。


本作とは関係ないけれど、松岡昌宏、櫻井翔、二宮和也etc
ジャニーズの人達はホントに才能も根性もある男子揃いだね。
おっさんも本気でファンだっ!

STAFF| 07:33 | カテゴリー:

「クイーン」が作れる英国2007年02月09日

この時期、メディア人の特権のひとつが
日本公開前のアカデミー賞ノミネート作品の試写に行けること。
注目作は普段の倍以上の関係者が狭い試写室に殺到するので、
超満員になり補助席もなくなって帰されることが結構ある。

作品賞、監督賞、主演女優賞など6部門にノミネートされている
本作「クイーン」もその例外でなく、
僕も覚悟を決めてかなり早くから並んで入場、試写に臨んだ。
そして・・・ やっぱり素晴しかったのだ!!
中でも「クイーン」を演じるヘレン・ミレンが既に33映画賞で
主演女優賞を受賞しているのが頷ける、気品ある名演に感銘を受けた。

内容を簡単に言うと、英国ダイアナ元皇太子妃が
交通事故で亡くなった日からの1週間に焦点を当てて、
その対応をめぐって
確執が取沙汰されていたエリザベス女王の苦悩と、
首相になったばかりのブレア氏のとった行動を描いた
実話ベースの物語だ。

俳優陣は日本で超有名な人はいないが、それが逆に幸いして、
女王・首相とも本人に実にソックリで違和感が全くなく、
さらにダイアナさんを中心に当時の実写がふんだんに織り込まれ、
主な登場人物は全て実名とくれば、
これは全てが現実か?と見紛うほどだ。

そんな本作の軸になるのはエリザベス女王とブレア首相の会話。
常識的に考えて、ロイヤル・ファミリーと国家の首相が交わした
きわめて個人的な会話の内容が一般に公表させることなど、
絶対に有り得ないので、大半は脚本家の想像だとは思う。
それを前提に見ても、このようなデリケートな題材を選んで映画化できる
英国人たちに、良い意味での驚きを強く感じた。

そして当時は改革派のリーダーとして人気を誇ったブレア首相の進言に、
苦悩しながらも従ったエイザベス女王の、人としての度量の大きさを
キチンと描ききっている点も、本作のグレードを上げている。
一般社会とはかけ離れた世界に暮らし、普通に感情表現する場が限られる立場ながらも、女王も一人の普通の人間なのだと、スクリーンは訴えかけてくる。
独り感情を抑えきれず涙したり、国民からの非難のメッセージに落胆したり、少女からの花束の贈り物に素直に喜んだり・・・、
少し驚いたのは女王が自ら四駆車を運転していることで、
これは日本では有り得ない事の一つだったなあ。

いやあ、感動のあまり書きすぎてしまいそうなので、
この辺にしておきますが、
素晴らしい、名作です。

STAFF| 02:28 | カテゴリー:

真剣な「ブラッド・ダイヤモンド」2007年02月02日

レオナルド・ディカプリオはヒット中の「ディパーテッド」ではなく、
ブラッド・ダイヤモンド」のほうで
本年度アカデミー主演男優賞にノミネートされたわけだが、
見終わってその理由がわかったし、
これは社会派映画として是非チェックして欲しいと思った。

タイトルに込められた意味は「紛争の火種」ということ。
西アフリカの極貧国で内戦中のシエラレオネを舞台に、
そこで闇採掘されるダイヤの原石が、
如何に人々に狂気と混乱、争いをもたらすかを、
ディカプリオ演じる密売人の行動を通じて描いている作品だ。

映画は冒頭からショッキングなアフリカの現実を観客に突きつけてくるので、見るにはそれなりの覚悟がいる。そう、これは決して甘っちょろい作品ではない。
ゆえに全米公開された際は大ヒットには至らなかったが、
それはディカプリオのネームバリューに頼らず、
正しく作品内容の事前告知をした結果だったのだと納得させてくれる。

監督は「ラスト・サムライ」のエドワード・ズウィック。
共演はジェニファー・コネリーとジャイモン・フンスー。
ディカプリオ同様今作でアカデミー助演男優賞にノミネートされたジャイモン・フンスーの役どころは貧しいながらも幸せな家族に囲まれて暮らす愚直な漁師。
内乱とダイヤモンドはそんな彼の人生も大きく変えてしまうのだが、
ここでの演技はモノ凄い迫力で見る者を圧倒する。
僕は「イン・アメリカ」でのジャイモン・フンスーにも衝撃を受けたのだが、
本作はそれ以上かもしれないし、彼こそアカデミーの本命かもしれない。
となるとディカプリオと主演助演同時受賞、
それとも今回もレオ様は受賞を逃すのか・・・
まあ、そんな事を少しの楽しみにしつつ、
社会勉強も兼ねてこの作品を気にしていてください。

STAFF| 07:14 | カテゴリー:

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