
僕は80年代、アントニオ猪木が大好きだった。
「戦いのワンダーランド!」と古館伊知郎が熱烈実況したテレビ中継を愛し、
ハルク・ホーガンやブルーザー・ブロディとファイトする猪木に熱狂し、
藤波vs長州やタイガーマスク、前田そして蝶野、小川に至るまで
そのプロレス熱は続き、
猪木の引退試合も「行けばわかるさ!ダーッ!!」も東京ドームで生で見て、
そして先細り自然消滅し、最近は全く・・・なのである。
思い出せば、両国国技館での猪木vsブロディ戦とか見に行ったし、
あの試合中にリング下で
猪木がカミソリで自身を流血させた等々の
プロレス八百長暴露記事に失望したっけなあ。
今更「サンタクロースなんていないよ」と同じように
「プロレスなんて筋書きあるじゃん」なんて
真面目に言ってほしくなかった時代だ。
しかし、ショウアップしたエンターテインメントをリングで披露するには
尋常でない鍛え方と薬物で肉体改造するしかないレスラー達の晩年は辛い。
この作品「レスラー」は80年代に全米で名声を誇り、
今は全てを失った元人気プロレスラーが主人公の超お薦め作。
ランディは生活の為にスーパーでバイトしつつ、
地方巡業の少ないオールドファンを相手に
リングに上がり続ける中年プロレスラー。
後輩レスラー達からは尊敬されるが、ハードな連戦は確実に肉体を蝕み、
ついには倒れて緊急入院する羽目に。
話し相手と言えば場末のバーの子持ちストリッパーぐらいで、
疎遠な娘からは軽蔑され切っている。
しかし、その原因もランディに100%あるほどのホントのダメ男なのだ。
このランディを演じたミッキー・ロークが
今年のアカデミー賞で主演男優賞にノミネートされ、
影の主役として大フィーチャーされたのは記憶に新しいし、
ストリッパー役のマリサ・トメイも助演女優賞にノミネートされたくらいの
まさにダークホース的注目作である。
本作の大きなテーマは
誰もが避けることが出来ない老い、そして死への恐怖と孤独。
その予感を感じながらも、自分が最も輝いた時代を幻影の如く追い続け、
また そこにしか自身の生き甲斐を見い出せない男の悲哀を
ミッキー・ロークは見事に背中で演じ切っている。
そう、カメラは老いぼれた男の後ろ姿を全編 映し続るのだ。
その様は寂しく哀れで主人公の人生全てを凝縮しているようでもある。
そして「自分は彼とは違う」と言い切れない複雑な感情に揺り動かされる、
特にオッサン世代には必ず刺さる本作、
ストーリーも解り易く気が付けばもうエンドロールだった。
そのエンドロール、
ミッキー・ロークとも親交があるブルース・スプリングスティーンによる
主題歌が流れる中、様々な想いが浮かび上がって泣きそうになった。
いい映画だと思います。
6月上旬公開。